植物のあっぱれな生き方

21世紀は「植物との共存・共生の時代」と言われている。
この表題の本には人間が生きるためのすばらしいしくみや能力を身に着けているが、しかし植物にも生きるための感服するような見事なしくみや能力を持っていることをわかりやすく解き明かしてくれている。
共存・共生の大切さを大いに感じさせてくれる。

動物はウロウロと歩き回り自由がいっぱいでさぞ楽しいだろうと思っているが、どうしてどうして植物には動き回る必要がない、素晴らしい能力を備えている。
生き物の目的は子孫をいかに増やすか、が究極の目的。
ここにはその子孫繁栄の秘密、“婚活”が身近な草花や樹木を例にとって愉快に、わかりやすく説明されている。
なぜ動けないのにいや動かずして子孫を増やすすばらしいしくみ、知恵とワザを紹介してくれている。
動物が動き回るのは餌を求めて、伴侶を探すことを、そして自身を守り次世代へ命をつないでいくための行動が植物にはない。
しかし、植物の子孫を残す仕組みは実に巧妙で、合理的で計算しつくされた自然を読む力がみごとに備わっている。
たとえば花が咲き、実をつけるために、あるいは仲間の花がなぜ一斉に咲くのか、季節を2か月前にどうして感知するのか等々実に不思議に思われることをなるほどと納得させてくれる。
また植物の時間経過を知る能力と正確さには感嘆。
きっちり10時間とか14時間30分とかを測っているという。
子孫を増やすのに風や昆虫たちの力を借りなくては受粉できない状態が起こることを想定して植物たちは保険をかけている。
その保険が自ら受粉できる仕組み─自家受精・閉鎖花等─のワザを備えているのにも驚かされる。
また、花のあざやかな色やかぐわしい香り、また開花時間が花ごとに違っているなど子孫繁栄のみごとな対応力が備わっている。
花が咲く時期がほとんど春と秋に集中するのはなぜか、またいちょうやモミジはなぜ黄葉や紅葉するのか。不思議はつきない。
樹木の葉っぱは自然に落ちるのではない、次世代に引き継ぎを済ませてから自ら舞い落ちるという。
何気なく見聞きしていることが、植物の中では懸命に命をつなぎ、子孫を増やすという“あっぱれ”な生き方を教えてくれる。
物言わぬ樹木や草木がいとおしく思えてくる。

「植物のあっぱれな生き方」
  生を全うする驚異のしくみ

著者  田中 修
    京都大学農学部卒業 
現在甲南大学理工学部教授
発行所 幻冬舎新書
定価  760円+税